創設者の想い
創設者 故松山薫氏(まつやま しげる 2020年逝去)が、茅ケ崎方式英語学習法を考案した当時の想いを2008年に語った記事です。
お読みいただくと、故松山氏と同僚の元NHK国際放送の記者たちが、英会話力ほとんどゼロのレベルから、いかに工夫し学び有効な方法を確立していったかがわかります。
時代は流れても、「語学の習得に近道はなく」「Listeningの重視こそが最も有効」な学習法に変わりはありません。その普遍的な方法論となる茅ケ崎方式英語学習法への道筋を、どうぞ追体験してみてください。
松山 薫(まつやま しげる)
1929年東京生まれ。1952年東京高等師範学校英語科卒業。新潟県立栃尾高校、新潟南高校、静岡県立浜松北高校教諭を経て、株式会社川嶋商店で印刷機輸入業務。NHKに入社し国際局報道部記者。退社後「茅ヶ崎方式英語会」(会員5,000名)を設立し、初代会長。2020年4月逝去。

■国際コミュニケーションの手段としての英語
■LISTENINGの重視
ところが、新しい風潮のなかでは、LISTENINGよりSPEAKINGが先行されるようになりました。しかし、相手の言う事を充分聴き取れないでCOMMUNICATIONが成り立つわけはありません。結局、作家の富岡多恵子さんが「英会話私情」で指摘しているように、ネイティブスピーカーの言うことを鸚鵡返しにするだけの悲惨な英語学習が横行することになりました。日本の英語学習が、LISTENING重視という言語学習としての当然の帰結にたどりついたのは、ごく最近のことですが、茅ケ崎方式はガテーニョ博士のおかげで、まわり道をせずにすみました。茅ケ崎方式では、BOOK-0で英語の基本を学んだ後、BOOK-1、BOOK-2、BOOK-3、BOOK-4で徹底的にLISTENINGの力を蓄え、その力の上にBOOK-5でWRITINGとSPEAKINGを展開します。
■ カセットテープ、CDの利用
LISTENINGとは、注意力を集中して聴くことで、HEARING(聞こえる)ではありません。音声に注意力を集中するには、他の要素、たとえば、ビデオテープの絵(視覚要素)はない方がよいのです。それに、携帯が便利で価格も安いことから、音声教材にはずっとカセットテープを使ってきました。近年、音質の劣化のないCDが安価になり、携帯用のCDプレーヤーも1万円を切るようになりましたので、CDへの移行をすすめています。
■ニュースを素材とする教材
ニュースは世の中のあらゆる事象を取り扱います。従って、ニュースを素材にすることで、バラエティに富んだテーマの教材を提供することができます。また、言語の学習には、言葉と事物を一致させるのが効果的ですが、ニュースを素材とすることで、言葉と事象を一致させることができます。ただ、英文ニュースは本来、ネイティブスピーカーあるいはそれに近い英語力を持った不特定多数の人たちを対象にしており、そのままでは日本人の英語学習者にとってよい教材とはいえません。茅ケ崎方式ではニュースを素材としながらも、厳密な教材作成基準にしたがって、学習者のニーズに応じた教材を作成するよう努力しています。言葉と事実の一致の原則はBOOK-0でも踏襲しました。
■国内ニュース素材の重視
■ラジオニューススタイル踏襲
ラジオニュースには、それが聴覚にのみ頼ると言う特性から文体(style)にさまざまな工夫がこらされており、世界の有力な放送局はそれぞれ独自のSTYLE BOOKを持っています。NHKの国際放送RADIO JAPANでもこれらを参考にSTYLE BOOKを作成しました。茅ケ崎方式では、そのよいところを取り入れて、聴いて分かりやすい教材の作成に努めています。また放送ニュースは文語体の新聞ニュースとは異なり、WRITE AS YOU SPEAKが基本であり、日常の生活に使う英語に近いものになっています。
■ 対話の重視
世は英会話全盛の時代のようにみえますが、いま日本人に必要なのは、英語による対話の能力であると思います。会話というのは、知っている者同士が特にテーマを定めずに話し合うことですから、NON-NATIVEの人間が、かなりの英語力を持っている人でもいきなりNATIVE同士の会話の中に入ることはきわめて難しいことです。これに対して対話は、あるテーマに関して自分の意見を述べ、相手の意見を聞くことですから、そのテーマについての背景知識が有り、ある程度の英語力をもっていれば相手がNATIVEであっても充分に成立します。日本の大学を卒業して数年間地方局の記者をつとめたあと、国際局に配属された人間が一番困ることは、英語のLISTENING、SPEAKINGの力がほとんどないことです。しかし、原稿を書いてデスクに出すには、英文をチェックするNATIVEのリライターと話をしないわけにはいきません。原稿の内容については知悉しているので、これを頼りに、最初は身振り手振りまでまじえて、リライターとの対話をこころみるのですが、早い遅いはあっても、やがて必ず対話がなりたつようになります。こういう修行を積んだ後、ワシントンにあるAP通信社に研修にいくのですが、下宿探しから始まる半年間の研修生活を終え、立派に1人前の英文記者になって帰ってきます。
■普遍的な方法論
岩波新書に「英語とわたし」という本があります。筑紫 哲也、明石 康、船橋 洋一、小林 陽太郎といった人達の英語習得物語です。それぞれに試行錯誤しながら英語を身につけていったことがよく分かりますが、やはりこれは、才能に恵まれた人たちがそれぞれに辿った道であり、普遍性のあるものとは思えません。これに対して、茅ケ崎方式英語学習法は、私や同僚達が同じように辿ってきた道を一般化したものであり、日本で英語教育を受けた全ての人に適用できる普遍的な方法論であると思っています。ただ「英語とわたし」の中で皆さんに共通しているのは、外国語の習得に安易な道はないということです。
THERE’S NO ROYAL ROAD TO LEARNING ENGLISH.
創設者 松山 薫
2008年10月改訂
